12 YAMAHA 9K 頭部管
以前楽器をスタンドごと倒してしまい歌口にもダメージがあったようです。
その後鳴りが変わってしまったようで、溶接部分の状態にも不安があるということで確認する事になりました。
事故に遭った状況からすると思ったより小さなダメージで済んだようです。
この画像では良く分かりませんが、リッププレート手前が歪んでいるのが気になる程度です。
吹いてみると特に問題は感じられず、どちらかといえば良好な状態でした。
音量が出ない、高音も抵抗感が強く出し難いということでしたが、それほど気になる状態ではありませんでした。
中音がハスキーな感じということでしたが、確かに雑音が多くまとまりのない印象がありました。
これならおそらく剥がれが生じていることは無さそうですが、状態を確認することにしました。
ハンダが剥がれた様子はありませんが、左側に少しだけハンダの残りのような跡があります。むしろ上のロウ付け部分が黒く変色して隙間の様に見えます。
こちらは本体側のアンダーカットです。特に問題は無さそうです。
コルク側のアンダーカットですが、反対側に比べて管の方が大胆に削られていて少し粗さも感じます。
矢印で示したエッジ部分に僅かに打ち付けたような傷があります。
管の内側に沢山の傷があります。
吹いた感触ではそれ程問題が無かったので、敢えて手を入れなくても良いと思ったのですが、気になる部分を修正することで問題をお感じの点が少しでも改善できる可能性があったので、その様なご提案をしました。
ただ、傷を取ることに関しても「削ると僅かでは有っても重量が変わり音色に影響すると言われた事が有るのですが ・・」ということで不安をお感じの様でした。
ですので・・
削るということに過敏になられているようですが、普段私が行っている作業は問題部分を削ったり磨いたりすることに他なりません。
削った重量の変化とキズや表面状態を直した場合の音に関する変化を考えれば、比較のしようもありません。
重量の変化といっても普通の量りでは計測出来ないレベルですし、例えその変化を感じる事が出来たとしても良否に繋がるものではないと思います。
楽器店などでもそういった微細な点について述べられる方がいらっしゃるのですが、その割にひどい作りの状態に気付かない場合がほとんどです。
・・というご説明をしたところ、納得していただけたので修正することにしました。
エッジの傷及びリッププレート表面の歪みもある程度修正しました。
管の内側の傷も取りました。
アンダーカットにも少しだけ手を入れてバランスを整えました。
ライザー面の僅かなガタつきも修正しました。
ひと通りの修正を終えて吹いてみました。
劇的な変化は無いものの、元々の印象を損なうことなく全体によりしっかりした音の印象になった気がします。
低音はより倍音が乗せ易くなったようですし、中音も輪郭がはっきりした様に感じます。
高音も元の印象以上に普通に楽に出るように感じるのですが、思い込みかもしれません・・・
4オクターヴ目のCis,D,Fなども問題なく鳴ります。
あとは普段吹いていらっしゃるご本人に変化を感じていただけるかどうかです。
翌日改めて確認してみましたが、既に比べるには元の印象が薄れていて比較のしようがなかったので、単純にこの頭部管の印象を確かめることにしました。
色々な曲やフレーズを吹いても特に問題を感じることなく、良いポイントをつかむと様々な表情もつけられ楽しく感じる事ができました。
明るく軽やかで確かに力強さを感じるような音色ではありませんが、だからといってそのような表現ができない訳ではありません。
音量に関しては、奏者との相性はあるものの「絶対的な楽器の音量」というのは無いと考えています。
何らかの問題があって、ある線を越えるとそれ以上吹き込むことができずに頭打ちになってしまう頭部管はあります。
この頭部管はそういったことは無いので、可能性としてはいくらでも(ある程度)音量を増すことができると思います。
以前他の楽器と吹き比べて音量不足を感じたということですが、最終的には相性や9Kという材質の性格に関わってきますので、限界を感じた時点で改めて次の検討をされれば良いかと思います。