Post date: Jan 28, 2014 10:15:33 AM
今回大変珍しいというか、初めて知った頭部管の依頼がありました。
どこにもメーカーや番号等が一切印されていないので、お客様にお尋ねすると・・・
製作者は Odysseas Fidanza という方でどうも個人の工房のようです。
eBayにて販売しており、住所がギリシャになっています。
現在はロゴを彫り込んでいるようですが、この頭部管を手に入れたときは無印でした。
・・とのことでした。
早速検索してみると・・ありました。
送られてきた楽器は本当に初期の物なのでしょう。
早速吹いてみると、特に詰まって吹きにくいという訳でもなくむしろ抜けは良い方です。
可もなく不可もなくただ音が出るという感じで、曲を吹いてみようという気になりませんでした。
お客様が「ごく普通で平凡」と表現されたのが納得できました。
「3オクターブ目の抵抗を強く感じ、長時間吹くと疲れてしまうという事と、もっとメリハリのある個性を持ったものに出来ないか」
というご依頼内容でしたので、スコッティシュを含めた方向で作業に入りました。
コルクを使わないヘッドスクリューが斬新です。
全体の作りは決して丁寧で良いものではありませんが、目指している形や方向性は共感できますし、情熱や意気込みが伝わって来ます。
最新の頭部管を見てみるのも面白いかも知れません。
さて、一番気になったのは管とライザーの接合面にある不具合でした。
その辺を修正しつつ全体にナイフを入れて行くと、いろいろと形の問題が現れて来ます。
今回、ライザーとリップ・プレートの接合面(ろう目)に出てきた多数のスと、ライザー自体に出てきた鋳物のスに泣かされました。
この「ス」に関しては、殆んど問題にしていないメーカー(製作者)も多い様ですが、以前私がメーカーで製作していた時には、これを潰すテクニックや、如何にスの出ないロー付けができるかといった技術を仲間同士で磨き合ったものです。
最近では分業化の方向に向かっているらしく、そういった切磋琢磨して技術を向上したり総合的に仕事を把握できる人間が減って行く傾向にあるようです。
さて、このスは完全には取りきれなかったものの、一通りの修正が完了したので音を出してみました。
最初の状態に比べるとかなり表現のできる楽器になった様です。
それでもまだ特別な1本として持っていたい楽器とは言えない状態です。
やはり、ここは Scottish Fold Embouchure の出番のようです。
今回はあまり大きくならないよう、繊細な作りを心掛けて耳付け作業に入りました。
リップ・プレート正面の形状・表面状態もあまり良くないので手を加えました。
エンブレムも貼ってバフを掛けると、いろいろな歪みやら何やらが目立って来ました。
音を出してみると、とても心地よく吹けるようになりました。
録音して載せるのはもう止めようと思っていたのですが、めずらしい楽器でもあるし何となく音を残しておきたかったので・・・
初めて恩師の古いセルマーを使って録音してみました。
コメント
☆『(1月29日)
現在、パール・オペラは調整に出しているためサブのナツキフルート(洋白)で試しています。
うまく表現できませんが、柔らかい中に張りというか粘りを感ずるようになりました。
最も嬉しいのはこの厚管(0.5mm)で3オクターブ目をpで軽く出せることです。
有名なビゼー・メヌエットの跳躍がすんなり出来ました。(いつもは出しやすい薄管の頭部管を使用していました)
パール・オペラだと低音がより豊かになるので楽しみです。次の日曜日にはできます。
(2月1日)
早速パール・オペラにつけて見ました。
「力強いなかに、まろやかさを感ずる」一品です。
これぞ厚管の醍醐味と言える頭部管になりました。
チューニングで音に張りがでましたね。このためpで吹いたときの音色がぼやけません。
強弱もつけやすく、使うのが楽しくなりました。』
2014/02/01(No.4) 山形県 H.I. 様