11 メナート(改)

Post date: Mar 3, 2014 4:51:32 AM

今回は大学の後輩(実は同じ歳)からの依頼です。

現在は高校の教諭になられ趣味で吹いておられる様です。

内容は以下の通りです。

以前(8~9年前?)、アンブシュア部を銀製であることに対する不満と高音のつながりやすさに魅せられて秋山フルートでクラシカルタイプに交換してもらいました。

メナートの出すぎるくらいの低音が犠牲になったのかなと思いましたが、メナートの音色は残っていたので致命的とは感じませんでした。

しかし、ダイナミックレンジの狭さや吹奏感の物足りなさからか、だんだん使用頻度が下がってしまい、今では殆ど使っていません。

たまにオケの練習で使ってみると、周囲の仲間からは、「いつもより、なんか窮屈そうですね?」との感想を寄せられ「なるほど」と納得しています。

サウンドホールも小さくなり、以前ほどの低音のボリュームは戻ってこないとは思いますが、高音の繋がりやすさと透き通るような音色を残しながら、

もう少し低音が豊かにならないかと願っています。

ホワイトゴールド管に銀の歌口が付いていたものを、秋山氏に依頼してピンクゴールドの歌口に付け替えたというものでした。

最初に連絡をもらったときに、ホワイトゴールドは非常にハンダ付けが困難であった経験があったので確認したところ、オリジナルはロー付けされていたとの事でした。

最近いろいろな事例を見て思うことは、昔からどのメーカーもきちんと金属の特性を把握して対応していたということです。

私が居た会社には殆どそういったノウハウが継承されておらず、私が修理に当った時も文献を調べた上でいろいろなハンダを使って実験して一番相応しいと思われる物を使った覚えがあります。

今やそのノウハウさえ受け継ぐことが無い状況にある様です。

早速吹いてみましたが、あまりの音の小ささにびっくりしました。

とても優しい上品な音ではありますが、何か別の楽器を吹いているような・・或いはサイレンサーの付いた深夜練習用の楽器といった感がありました。

試しにこの様なヘッドスクリューが付いていたので普通の物に替えてみると、俄然音量は出るようになりました。

トロフィーの様でとても美しいのですが・・・

最近このような「音を良くする」効果をうたったアイディア商品が出回っていますが、どれも根本的な改善に繋がる物は一つとしてあり得ないと思います。

例えば歌口の壁に一つ傷を付けただけで劇的に吹奏感も音も変わる場合があります。

それを良しとしてしまったら、無数のヴァリエーションの歌口で溢れてしまいます。

何をしても大きな変化が現れる事が頭部管を神秘的な物として祭り上げ、良い商売道具になっている様な気がしてなりません。

本体の様にタンポが塞がらない楽器はダメ・・・といった単純明解な基準があっても不思議では無いのですが・・・

さて、作業に入ると早速平行四辺形のように曲がった穴の修正をすることに・・・

これを避けて通る訳には行かないのでどうしても穴が大きくなる傾向になってしまします。

何度か試奏しながら調整したのですが、ホワイトゴールド管によるものかゴールドの歌口によるものかどうしても伸びやかで良好な音に持って行く事ができません!

大した違いは無いだろうと思い前述のヘッドスクリューを使っていたのですが、普通のコルク栓に替えてみると明らかに良い方向に変わりました。

何度も繰り返し試してみたのですが結果は同様でした。

もしかするとシリコンのOリングの気密性が劣化しているのかもしれません。

それでもまだ納得の行く状態にはならず、一度あきらめかけましたが更に最後の手を加えることにしました。

何とか納得できるところまで持って来ることができました。

コントロールもし易くなり音量も出る様になりました。

もちろん低音も豊に鳴るようになったと思います。

ホワイトゴールドの特徴なのかきらびやかになる事無く重い音の印象です。

私の黒檀製ヘッドスクリューを付けたところケースに収まらなくなりました。

急遽出っ張る部分が少なくなるように加工して終了しました。

コメント

☆『本日無事届きました。

チューニングして頂いたメナートを吹く前に、自分のコンディションを確認する意味も兼ねてヘインズ(オリジナル状態)で音出しを済ませ、さらにラファンをオリジナルの状態に戻して状態の変化を確認しました。

高村さんのご指摘通り、ラファンも反射板やコルクをオリジナルの方がボリュームもアップして艶やかな音色になりました。

のびのびとした吹奏感になんだか楽しくなって、音出し程度のつもりが2時間ほど練習してしまいました。

ちょっと休憩してから、いよいよスコティッシュ・メナートを試してみました。

初めのうちは久しぶりの使用のためか、ボディーが響いてくれず、寝ぼけた音しか出せませんでした。

タンポも私自身も馴染んでいない様な状態でしたので、暫し我慢しながらソノリテからやり直してみました。

徐々に鳴りはじめ、ポイントもつかめてきました。そして、艶と響きが戻ってくるのを実感しながら、息の入り具合や音色が改善されているのが分かるようになりました。

1時間ほどすると豊かな低音に加え、のびやかで艶やかな高音、さらに音のつながりの良さに感動していました。

なるほど、これが「おきて破りの吹きやすさ!」かと納得できました。

元の窮屈さはどこかに消えて、ダイナミックレンジの広さや扱いやすく軽やかな吹奏感に快感を覚えました。

ただ、キーメカニズムからのガチャノイズが難点に思いましたが、頭部管のチューニングとは無関係ですよね!

あと中高音の伸びやかさがもう少し出てくれると良いと思いましたが、もう少し時間をかけて楽器自体をリハビリしてやれば改善されそうな気がします。

サブのフルートとして出番が少なくなるばかりの楽器でしたが、メインのフルートを脅かすのに十分な魅力を備えた、吹いていて楽しい楽器に大変身したと思います。

これから使用頻度がどんどん上がっていくのは確実です。

文章に表現力が乏しく感動と喜びを十分には表しきれていませんが、想像を超える仕上がりに大変喜んでいます。

ありがとうございました。』


2014/03/04 (#11) 兵庫県 T.N. 様