24 三響 ST-1 Pure Ag

Post date: Oct 16, 2014 12:27:31 PM

今回で3本目のご依頼を頂きました。

こんな風に書くとたくさんの楽器をお持ちのコレクターやマニアといった連想をしてしまいがちですが、

このお客様はしっかりとしたお考えをお持ちの上で楽器を選ばれ、その特徴や状態についても正確な判断をなさっておられます。

今回の内容は

3 頭部管の機種: サンキョウ ST-1(スタンダード・タイプでライザーが一番高い頭部管)5年前に購入

4 使用楽器: アルタスPS、リング・キー、ハーフ・オフセット、H足、Eメカ(6年前に購入)

5 依頼の主旨: アルタスPSを気に入って買ったものの、どうしても頭部管になじめず、翌年サンキョウST-1を買った。

それまで使っていたサンキョウ・フルートの頭部管が気に入っていたので、同メーカーの頭部管を選んだ。

☆ 気に入っている点

① レスポンスがよく、タンギングもザクサクと切れる。

② 輪郭のはっきりとした音色で、PSの堅い材質と相まって、シャープで硬質な音が出せる。

③ ライザーが高いため、低音が出しやすい。

これらの特徴はたぶん、歌口のエッジが薄く、鋭く削ってあることと関係あるのではと思っているが、この特徴は諸刃の剣となっているのか、

以下のような不満を生み出している。

★ 不満な点

① 高音が鋭すぎる、薄すぎると感じることが多く、長時間吹いていると耳が疲れる。

② シャーリングがやや多すぎる。これはライザーに意識的に残してあるヤスリ痕?のせいと考えられるが、もしかすると、私がうっかりぶつけて傷つけてしまった

歌口右上方の小さな傷も関係しているかもしれない。

③ コントロールしにくい。

6 Scottish 化について: 私は髙村さんの診断・技術に全幅の信頼を寄せておりますので、髙村さんのご判断にお任せします。

私は基本的にはこの頭部管が好きなのですが、この頭部管を一言で言ってしまえば、「じゃじゃ馬」となるでしょうか。

どうも長所が短所にもなっているようで、厄介ですが、この頭部管の「じゃじゃ馬ならし」を髙村さんに是非お願いしたいと思っているのです。

ソフトで甘い音色を出したいとき、あるいは古い時代の音楽を演奏したいときには、以前チューニングしていただいたムラマツDNのヘビー管を吹き、

新しい時代の音楽を演奏したいときにはアルタスPSを吹いて楽しんでいます。

この2本の全く違うタイプのフルートを吹けるのは贅沢なことだと思っています。是非、よろしくお願いいたします。


ということで、少々難しい課題にも感じられましたが少しでも改善出来ればと考え、お引き受け致しました。


頭部管が届き、早速音を出してみました。

殆ど前述のお客様ご自身の印象を再確認する形になりました。

確かに低音は小気味良い鳴りですが高音は無機質で冷たい音です。

全体の雑音はエッジの傷が原因かもしれません。

音程のコントロールもしづらい様です。

中を見た限りでは問題は見られず比較的綺麗な作りでした。

あまり手を加えずにどこまで改善することができるか、微妙な調整をじっくりと行ってみることにしました。

最初に気になったエッジ上の傷の影響を確かめようと、その部分に手を入れ始めてから写真を撮り忘れていることに気づきました。

(したがって元の状態の画像はありません。)

その処理後の音出しではさしたる改善は感じられませんでした。

ライザー正面の壁の形状と状態、アンダーカットの微妙なつながり具合とサンキョウ独特のオーバーカット(ショルダー)の形状等にも少しずつ手を入れて一旦磨くことにしました。

ほぼ不満な点として掲げられていた問題は改善されましたが、今ひとつ私自身が満足できない部分が残りました。

その後吹きながらの僅かな調整で殆ど改善することが出来ました。

これで気に入っておられる特徴を犠牲にすること無く、不満な点を改善して楽器としての問題点も解消出来たと感じました。

それでもこれしか無い1本と考えた場合に、自分としてはもう少し手を加えて深みや艶が欲しくなってしまうのですが、それではどれも同じ傾向になってしまうので今回はこの状態がベストと考え終了いたしました。

最近は木製頭部管の製作に殆ど没頭していますが、歌口作りにおいてはこういった経験が常に活かされているのを感じます。

コメント

☆『さて、チューニングされた私の ST-1 ですが、期待はしていたものの、結果はその期待を超える出来でした。

まずは、音程のコントロールが飛躍的に楽になりました。

以前は、中音域から低音域へ飛び下りる場合など、音程が定まらないことがしばしばで、四苦八苦したものでした。

それが今回のチューニングにより、同じパターンがいともやすやすとこなせるのです。

シャーリングもなくなり、しかもキンキンとした感じも消え、高音域が続くフレーズでも耳に優しくなりました。

勿論、これまであった長所は保たれているのですから、私としては嬉しくてたまりません。

一言で表現すれば、「じゃじゃ馬」を「名馬」に変えたチューニングとなるでしょうか。

頭部管をかえるというのは一体どういうことか・・・

私はよくこんな風に考えています。

同じ人物なのに、色々な声音(こわね)を使い分け、様々な人物を演じ分ける名優や名ナレーターがいて、感心することがあります。

同様に、一つの頭部管しか使っていないのに、幾つもの音色を使い分けることのできる名フルーティストがいます。

しかし、私のような腕の笛吹では、口内キャビティーをあれこれ変化させて、違う音色をつくることはできても、所詮、パレットのバリエーションが限られています。

けれども頭部管を替えると、新たな声帯を手に入れた声楽家になったような気がするのです。

ですから、私は頭部管を交換しながら、独り言(ご)ちて「先程までは、アンナ・モッフォだったけど、今度はレナータ・スコットの声で歌いますか」などと戯れ、フルートを吹いています。

今回、また素晴らしいチューニングを施して(頭部管を変えて)いただき、頭部管を替える愉しみがまた一つ加わりました。

新生 ST-1 は、まだ深い憂いを知らない少女のような、透きとおった水晶の輝きをもった声で私の音楽を奏でてくれそうで嬉しくてなりません。

全く、髙村さんの技術のすごさには毎回驚くばかりです。

西にラファンあり。されど、東には髙村ありです。

問題なのは、一旦、髙村さんにチューニングしていただくと、病み付きになることです。今回で三本目ですが、困った・・・他にもまだ頭部管を持っているんです・・・

今回もまた、本当にありがとうございました。明日からのフルート・ライフがまた楽しくなります。』

2014/10/16 (#24) 福島県 H.H. 様