28 Lillian Burkart 頭部管

Post date: Dec 19, 2017 5:05:01 AM

今回は普段とは少々変わった内容のご依頼です。

今までにも調整をさせて頂いたことのある方なのですが、最近長時間吹くと疲れるようになって来たので、もっと楽に吹ける楽器を求めて今回の頭部管を選ばれたということです。

腹圧をかけなくても楽に鳴らせて長時間吹いても疲れないという点が最大の長所ということで、音色の魅力は感じていないようです。

それでも雑音と見た目のハンダの部分が気になるということでした。

実際に吹いてみると困った状態でした。

確かに腹圧をかけずに楽に吹ける・・と仰る感覚は分かるような気がしました。

太い息の流れの中から音になる効率が良い気がします。

ただそれ以上の事をしようとすると何も反応しなくなってしまう感じがあります。

もっと芯のある音を作ろうとヴィヴラートをかけて行くと、その分は息漏れの雑音となってしまい音に反映されない感じです。

例えば、Faure/ Fantasie の冒頭 H の音を次に向かって表情を付けようとしても、キーボードを弾いているようで何もできない感覚です。

ピアノの鍵盤を押さえて単音を伸ばす時、思わず指でヴィヴラートかけてしまう感覚に似ています。(無駄とは知りながら・・)

また、Bizet/ Carmen 前奏曲を自分のイメージで吹こうとすると、最初の Es の音がひっくり返ってしまい音になりません・・・

こういった状況ですので、私にはこの楽器が良いとは感じられません。

初めて楽器を持つ初心者が吹く分には「鳴らし易い」と感じるかもしれませんが、楽器としてはお薦めできない気がします。

私は初心者用の楽器という区別はしたくないので、この頭部管の位置づけに非常に悩みます。

こうやって見る分には特に問題はありません。

正面右コーナー近くにはっきりした傷が見えます。

角度を変えるとライザーの面が波打って見えます。

中を見ると・・

下のコーナーがえぐれて膨らんで見えます。

反対側も真っ直ぐではありません。

コーナーのハンダ部分が黒く見え隙間の様です。

ハンダがまわっていないというよりも、取り残しの部分が変色して幅広に見える様です。

これではいくら吹き易いといっても楽器として問題のある状態だと思います。

ともすると吹き易いと感じられる印象は変わってしまうかもしれませんが、この状態を放置するわけにはいかないので修正することにしました。

すっきりとした面になりました。

まだ少し気になる部分もありますが最小限の手を入れるのみで止めました。

波打った感じは無くなりました。

元の状態に比べると少しだけ表現や音色を変化させることができるようになったようです。

思い通りに表現するには非常に難しい頭部管ですが、楽に音が出せるという傾向は変わっていないと思います。

今回の目的からするとこの状態で良いのかと思います。

もしもこの頭部管をメインとして使える状態に・・というご要望でしたら非常に難しく納得のいく状態には出来ないかもしれません。

私の元へやって来る頭部管は殆どが何かしら問題のあるものばかりです。

良い状態のバーカートはこの様な傾向でしかも自由にコントロールできる頭部管なのでしょうか?

コメント

☆『まず感じたのは、最低音域のCやHがとても出しやすくなったことです。

ホームページの作業内容や写真を見て、この頭部管が私の予想以上に問題児であったことに驚きましたが、チューン・アップ以前、最低音が出しづらかったのは、ライザー部分の出っ張りが私の口から出た息が瞬時に足部管の端まで届くのを妨げていたからなのだということが解りました。

お蔭様で、これで他の頭部管と同じように最低音も楽にポンと出せるようになりました。

次に感じたのは、コントロールしやすくなったということです。

ライザーの波打ちもなくなり、さらには隙間ができているように見えたハンダ付けの部分もきれいになり、全く気にならなくなった分だけ、頭部管を覗き込むと気持ちまですっきりします。

音はと言えば、相変わらず、あっけらかんとして潤いに欠け、まるでアメリカの大平原のような音ですが、その代わり、吹きやすさは以前のまま、いや以前以上ですから、私にとっては気になりません。

と言うのも、最近、タファネル&ゴーベール等を練習した後に曲を演奏しようとしても、その練習だけで疲れてしまい、曲を吹く気持ちが高まってこなかったからです。

それが、このバーカートを入手以来、スケール等をたっぷり吹いた後でも十分にスタミナが残っているのです。

曲を演奏するとき、大抵は他の頭部管を使いますが、この頭部管にもそれなりの活躍の場があり、私には必要なのです。

髙村さんにチューン・アップしていただいた頭部管はこれで確か五本めになると思いますが、歌口工房、髙村さんに出会わなかったら、私のフルート・ライフはきっと惨めなものだったに違いありません。

上手く吹けなかったのは、自分のせいなのか、それとも頭部管のせいなのか・・・などとうじうじと思い悩んでいたことでしょう。

世の中のフルーティストたちに、もっとこの歌口工房が知られ、それぞれのフルート・ライフがもっともっと楽しいものになればと願っています。

今回も本当にありがとうございました。』


2017/12/21 (#28) 福島県 H.H. 様