21 ムラマツ銀製頭部管の Tuning

Post date: Sep 3, 2014 12:08:32 AM

久々の作業日記になってしまいました。

今回は写真を撮るのを忘れてしまい画像がありません。

ご依頼の内容は

実は、ムラマツADRCを購入後、やはり不満があり、頭部管だけ買い換えました。

そのときは、在庫にあった数本の中から一番よいと思われるものを選んだのですが、

今思えば、完全に納得できてはいなかった気がします。

その後も常にオケの中に埋もれてしまいがちな音に、

自分の技量が足らないからだ、と言い聞かせながら吹いていました。

今回、貴ページの作業日誌のなかに、オリジナルのムラマツの頭部管に

あまり良い印象をお持ちでない記述があり、それが改善されたことに、

大変興味を持っています。

ということで、

1.ブレスが短いので、少ない息で効率よく、良く響く音が出る

2.オケの中で、よく通る音

3.一番好きなフルーティストは、オーレル・ニコレさんです。

以上の点を考慮してのチューニング作業となりました。


吹いた感じはそれ程ひどい状態ではないのですが、開いた感じの音で艶のない音になってしまいます。

まとまった息で吹こうとすると失速して左手の音程が下がります。

それを防ぐには外向きにして息の量も増やさなければならなくなる為、息が足らないと感じられるのではないかと感じました。

それからフォルテで中音を吹こうとするとひっくり返る傾向もあるようです。

歌口の形は現行のクーパー・カットに変わる前の形ですが、作りに関してはそれ程気になる状態ではありませんでした。

それでも改善すべき箇所が幾つか見られたので作業の方針が決まりました。

大きく形を変えるのではなく、問題箇所を修正して形を整える方向で作業に入りました。

この当時の作り方から生じる四隅のハンダ残りを修正すると、必然的にアンダーカットの形を直すことになります。

そしてよく見られる穴の形の不具合を整え、エッジの切り直し。

以上でかなり良い状態になりました。

以前はこの当時の頭部管をいきなり今風の形に作り変えてしまうことが多かったのですが、今回の仕上がりの方がかえって良い様に感じました。

これで気持よくオケの中で吹けるようになって頂ければ良いのですが・・・

このところ木製頭部管の製作ばかりで Tuning から遠ざかっていたのですが、この作業ならではの面白さがあります。

歌口製作において活かされる貴重な体験でもあります。

☆『さて、仕上げていただいた頭部管ですが、音の輪郭がはっきりした、という印象です。

以前感じていた、ポイントがはっきりせず、なんとなく密度が薄い音になりがちだったのが、しっかり響く音を出しやすくなったと思います。

依然、どのポイントが一番良いのかは、試行錯誤中ですが・・

特に中音域の雑音が無くなり、響きがきれいになったのと、低音域は密度の高い音になったと感じています。

4オクターブ目は、以前よりは少し出しやすくなった気がしますが、やはり簡単にでる、というわけにはいきませんでした。

高村様は問題ない、ということですので、私の奏法に問題があると思われますので、今後、練習で克服していきたいと思います。

まだまだ試行錯誤の最中ですし、時々、「お、今の音はニコレの響きに近いか?」と思う瞬間もあります。

なんとか理想の音が常に出せるように精進したいと思います。』

後日あらためて以下のコメントを頂戴いたしました。

「ほぼ納得いただける仕上がりになったと理解してよろしいでしょうか?」

とのお尋ねにお答えしようとしている間に、あっという間に一週間以上が過ぎてしまいました。

なぜかというと、、毎日吹くたびに、どんどん感触が良くなっています。

そして、今日までに、

「とても満足できる仕上がりにして頂きました。」

とご報告できる状態になりました。

正直言って、「今まで鳴らない楽器に四苦八苦してきて、損しちゃった」

という印象です。

もし、もっと早くからこのような状態の頭部管に出会っていれば、

私の演奏も、かなり違ったものになっていたんではないか、と思うほどです。

2,3日目で、「ここか!」というポイントが見つかった気がします。

きっかけは、貴ホームページにアップしてある、

ムラマツEXのスコッティッシュで吹いていらっしゃる音を聴いてから、

同じ音色をイメージして吹いたことです。

すべての音域でクリアな音色になり、

低音もよく鳴ります。

4オクターブ目のDもあきらかに出しやすくなっています。

以前より、中音域、低音域でも息のスピードを上げられるので、

音色に響きとハリがあるような感じです。

ただ、時々、ポイントを見失います。

探していると、しばらくしてすぐ見つかる時もあるし、

結構時間がかかる時もあります。

いつでも最適なポイントに息を当てられるよう、

練習を積み重ねることが必要だと思っています。

歌口のチューンだけでここまで変わると、

さらなる興味が湧いてきて、お聞きしてみたいことも出てきました。

最低音域の反応がもう少しだけ良くなると、

C,Cis,D 等がスタッカートでもクリアに出せそうなんですが、

今のところそれができないのは、

私の技量が足らないのか、

フルートという楽器自体、または管体全体の特性上、仕方ないのか、

または、歌口チューニングによってまだ改善の余地があるかもしれないのか、

高村様のお考えを、お聞きしてみたいと思っています。

作業日誌にあった、

「いきなり今風の形に作り変えてしまう」 場合は、

どんな吹奏感、音色になるのか、ちょっと興味もあります。

今の、ニコレの音色を目指せそうな少し曇りのある音色を出せそうな状態から

完全に明るい音色になってしまうんでしょうか?

また、スコッティッシュ化すると、さらに良くなる可能性はあるでしょうか?

どのような点で違いがでてくるのでしょうか?

以上の点で、高村様のお考えをお聞かせいただければ、

と思っています。』

これに対してできる範囲でお答えしたところ、下記のコメントを頂きました。

とても丁寧なお答えを頂き、ありがとうございます。

チューニングの仕上げについて、

お答えの内容を実感しておりますので、

もう迷いがなくなりました。

お教えいただいたことを胸に、

ニコレさんの音を目標にして

更なる精進をしていきたいと思います。

本当に楽器が生まれ変わったようで、

音を出すのが楽しくてたまりません。

いつまでも吹いていたい衝動にかられます。

高村様との出会いに感謝いたします。

ありがとうございました。

2014/09/02 (#21) 愛知県 T.T. 様